記者バカ一代 マル秘取材メモで振り返る、昭和&平成「記者会見」裏面史

号泣!大爆笑!居直り!記者会見に見る、昭和・平成史

緒形拳 「空虚を睨みつけながら、静かに息を引き取った」津川雅彦が見た臨終病室

                                

 2008年9月30日、筆者はフジテレビ開局50周年記念ドラマ「風のガーデン」の制作発表会場にいた。

 同作は「北の国から」「優しい時間」に続く、脚本家・倉本聰氏による富良野3部作の最終章。

 物語は中井貴一扮する末期ガンの麻酔科医と、そんな彼を取り巻く人間模様を描いたヒューマンドラマだ。

 会見には終末期医療に取り組む老医師役として、緒形拳も同席。

 しかし「否応なく人って老いていくわけで、それで病になるわけで、そして否応なく死が訪れるわけで…」と語る彼の声は、疲れているのか、いつになく張りがない。

 名優も「老い」には勝てないものかと、ぼんやり思ったものである。

 だからこそ5日後の10月5日、緒形急逝の一報を聞いた時には、驚きで言葉が出なかった。

 緒形は8年前に慢性肝炎を患い、それが肝ガンへと移行。

 10月に入って体調が急変し、4日から栃木県の独協医大に入院するも、5日午後には危篤状態に陥った。

 そして午後11時53分、家族に見守られる中、息を引き取ったという。死因は肝ガンによる肝臓破裂だった。

 10月7日午後、東京都新宿区の大日本獅子吼会本堂で営まれた葬儀・告別式には、650人が参列。

 列席した西田敏行は「群れたがらないし、狼のような方。俳優としては哲学者、役者としては職人、緒形さんとしては孤高の人でした」。

 また、桃井かおりは「人間としてはどうであれ、俳優として優れろ!と言われたら私、こんなんになっちゃった。これだけ俳優、特に女優さんが集まる景色は素敵ですね」と故人に想いを馳せた。

 葬儀を終え、長男で俳優の緒形幹太と、次男・緒形直人が記者会見に臨む。

 幹太によれば、緒形の体に肝ガンが見つかったのは5年前。

 しかし、

「仕事関係の人には絶対に言うなと言われ、家族しか知らなかった」

 さらに撮影に穴を開けられないとの思いから入院も手術も拒み、体調が悪くなると点滴を受けるために通院し、食事療法に励んでいたという。

 直人もまた、目を潤ませて、

「仕事に意欲的で、病気に勝ちたいという強い思いがあった。オレは絶対、大丈夫だと言っていた。(ガンと)懸命に戦ったと思う。あまりにもデカい存在。格好いい、温かい男です」

 戒名は、天照院普遍日拳居士。

 危篤の報を受け、いち早く病院に駆けつけた津川雅彦は、自信のブログにこう綴っていた。

〈「お前身体大事にしろよ!良い映画沢山撮ってくれよな!治ったら、うなぎ喰いに行こうな、白焼きをな!」と冗談交えて、医者に危篤を宣言されている患者とは思えない明るい台詞を残して、その4時間後には歌舞伎役者のように、虚空を睨みつけながら静かに、息を引き取った〉

 71歳の生涯。緒形の目は息を引き取る最期の瞬間まで見開かれていたというが、彼が見つめるその視線の先にあったものとは…。